![]() スリップウェアについてはしばしばここでも紹介していますが、ロンドンよりイギリスの古いスリップウェアのかけらをずいぶんたくさん届けていただきまして、日本にいてはとても手に入る訳もない貴重な資料が相当の数いまぼくの手元に集まってきています。 スリップウェアに深く想いを寄せるものにとってはこのちいさな陶器のかけらも全く宝石のようにさえ感じられるのですが、御好意で贈ってくださったものであればこそこれを預かっているぼく自身がただ独り占めするばかりではなく、なんとかより多くの方にもご覧いただき、楽しみ、また役立てていただく機会を作る責任もあり、まずはほんのささやかな小冊子の発行を計画しました。 近年日本でもスリップウェアをお手本とした作陶を志す方も増えてきたようですが、こういう資料に恵まれたひとはあまりいないのではないかとも思います。作陶家にとって多くの陶片を観察することはひとつの完器を鑑賞するのとはまた違った部分で大いに学ぶことが出来る大変貴重な機会ですし、また作り手ではなくともスリップウェアを愛する方にとってはかたちの失われたこういう残欠の写真でさえも十分いとおしんでいただけるのではないかとも思っています。さらにはまたこのような出所のはっきりしたまとまった資料は後年のスリップウェア研究のためにもおおいに役に立つのではないかと考えています。 もちろんそれを必要とする方には親しく手にとって見ていただくことがいちばんよいのですが、とは言いましても実際のところ身近な友人たち以外にとってはそれも簡単ではないのでまずは写真ででもご覧いただければと考えたのです。 このちいさな写真集は資金もない中でぼく自身が不十分な手持ちの機材で撮影し、オンラインの簡単なサービスを使って印刷したものですので、その写真自体も冊子としてもとても満足のゆくものとは言えませんが、それでも資料の少ないスリップウェアのことですから大いに歓んでくださる方もあるのではないかとも思っています。これはただただやきもののかけらが並んでいるばかりで、誰にでも必要な写真集だとは思ってはいませんが、スリップウェアをほんとうに愛する方にお届けできればとの想いを込めて作りました。 編集時の混乱で同じ陶片の違う写真がひとつ含まれてしまいましたが、それ以外はおそらくはそれぞれ別のうつわのものではないかと考えられるかけらを32ページに70点収録しています。陶片はここに掲載したもの以外にもまだまだ多くのものがありますので、いつかより適切な撮影者や編集者に結縁してさらに完全なものが出来ることを祈っております。 こういう冊子の印刷も多くを刷るならば一冊あたりはかなり安く作れるのですが、今回は一冊からでも注文できるsnapfishのサービスを使ったため単価が高くついてしまいました。どれだけご希望の方があるかも分からないので初版は14部のみ作りましたが数を限定する意図はありませんからさらに必要とする方があるようでしたら追加の印刷を考えます。その際には事情しだいで印刷サービスや写真などの内容を見直すこともあるかとは思いますので時間もかかる場合があり、またそれに伴ってあるいは冊子のスタイルや価格も変わることがあるかとは思いますがあしからずご了承ください。 なお、スリップウェアを通して今までも多くの方々との御縁が結ばれて、大きな御恩のある方も少なくはありません。ほんとうならそういう皆様にはそれぞれ個別のご案内をさせていただき、また当然お届けしてご覧いただきたい方も少なくはありませんが、今回の冊子に関してはほんのささやかな企画でもあり、価格も印刷と送料のほぼ実費と言う事情もありまして、どちらさまにも直接のご案内と謹呈はさせて頂いておりませんがどうぞご容赦下さい。 実際の手続きの便宜上頒布受け付けはすべて下記の方法のみとさせていただきます。特に期限を授けませんのでこの告知をご覧頂いたご興味のある方はご連絡下さい。 _____________________________________ kihatasarayama☆cans.zaq.ne.jp このメールアドレス宛にご連絡くださった方を先着順で受け付けますのでご希望の方は御住所とお名前を明記の上必要な冊数をお知らせください。 折り返しこちらからの返信メールにてご入金いただく口座番号等などをお知らせします。 発送は日本国内の送料込みで一冊あたり2,500円の御入金確認後に郵便局かヤマトのサービスにて発送します。 迷惑メール対策のために@を☆にかえて掲載していますのでご面倒ですが修正して送信してください。 前記のとおり初版分は14部のみですが、ご希望の方が多い場合は追加印刷も出来ますので特に数量と期限は決めずに受け付けをします。 なおメールをお使いではない方につきましては郵便葉書での連絡を受けさせていただきます。 _____________________________________ 2012.9 追記 この冊子はいつでも必要な方がおられたら追加で一部からでも作っていたのですが、今年になって元画像自体またもちろんかけら自体はあるのですがレイアウト等の冊子としてのデーターが壊れてしまいましてこのままのかたちでの増刷が不可能になってしまいました。 いくつか気になる点はあったものですからこのまま作りなおすよりはもう少しきちんと丁寧にやり直したいと思っています。 まだまだ時間はかかるかとは思いますがまた新しいかたちでご紹介ができるようになった時にはここでご紹介させていただきますのでご興味がおありの方はしばらくお待ち下さいませ。 ______________________________________ 2015.7 追記 すでに同じかたちでの再発行が不可能になっておりますのでこの冊子に添えた文章をここに添えます。 ごあいさつ その技法上スリップウェアと呼んでいいやきものは古くからヨーロッパ各地や、さらにはアメリカ大陸に渡った移民によっても作られるようになりました。しかしここで取り上げるものはなかでもおそらくは18-19世紀頃に掛けてイギリスの窯業地であるスタッフォードシャーあたりを中心に作られたと考えられているある特徴的な一群のやきものばかりなのです。それはスリップウェアの全体からすればある地域である時代に作られたただの一様式ではありますが、ぼく自身を最も夢中にさせてついには作陶を志すきっかけにもなったやきものはこういうものでした。ですからここでスリップウェアという時には全くこれらのものについてのみ指していると思って欲しいのです。 スリップウェアがあんまりにも好き過ぎて自らもそういうものを作ってみようと思い立ったのはすでに二十数年も昔のことですが、そのころからやはりこれをひとつは手に入れて手元に置きたいと願っていました。ところが当時は古い印刷物を探したり、民藝館などの展示で見るくらいが精一杯で実物を手に入れるというようなことは思いもよらないことだったのです。それだけに一枚の写真にさえ過剰な程の思い入れを込めて眺めることが出来たのはあるいは幸福なことだったのかも知れないとも思えます。 かなりの数のスリップウェアが民藝運動の先達たちによって日本に招来されましたが、おそらく濱田庄司さんが大正末年に英国からの帰国に際して持ち帰ったものがその最初ではないかと思います。彼はまた当時セント・アイヴスの畑からたくさんのスリップウェアのかけらを拾い集めたことも記しています。それを読んで、かけらならばまだ現地では見つかるのではないだろうかいうようなことを考えながら、せめてそんなひとつでもなんとか手に入れることはできないだろうかと願っていたのです。 そして2007年の秋になりロンドンのPaulさんYumiさん夫妻とのご縁があって思い掛けずたくさんのかけらを探して送って下さるという幸運に恵まれる事となりました。ぼくの感激は大変なものでした。それは畑からではなく、予想外にもロンドン市街を流れるテムズの川底に砂に埋もれて眠っていたのでした。お二人は何度もテムズ川のほとりを歩いてぼくの求めた「黒地に黄色い縞や波線、そして格子紋様などが描かれたかけら」を熱心に集めては折々に届けて下さったのです。しかもそれらは全くの御厚意によるもので安くはないはずの国際郵便の送料さえもただの一度も受け取っては下さいませんでした。日本にいる自分にとってはあたり前ではとても手に入るはずの無い宝物はこういうふうにして手元に集まってきた訳です。 たくさんのかけらを手に取って見るということがどれほど陶工にとっては得るものが多いありがたいことであるかは言うまでもありません。それはひとつの完器を観賞するというのとはまた違う大切な体験なのです。陶工である自分の立場では、ここから大いに学んで少しでもよいものを作りだすことが一番の報恩ではありますが、御厚意で送っていただいたものならば独り占めしてしまうばかりではなく少しでも多くの人とその価値と内容を共有して日本の工芸の将来に役立てることができればと考えてこの冊子を計画しました。これだけの出所のはっきりしたまとまった資料は後年の研究にとっても貴重なものですから散逸させないで長く保存すべきであると考えて、当面はぼくが預からせていただきながらそれを必要とする方があれば手に取って見ていただければと思っています。 これらを見ていて気付くことは、割合として抽象紋が極めて少なくその大部分が縞紋様であることです。黒地の部分が多い抽象紋のものは小さなかけらとなったときに黄色い線が含まれないためにスリップウェアとして拾われにくかったということもあるかもしれません。しかしむしろこれは当時あるいは複数の生産地から大消費地であるロンドンに運ばれて市民の暮らしに用いられ、やがて壊れてテムズ川に捨てられたものですからその消費遺構としての特色ではないかと思います。 また日本ではあまり知られていないリム付きの浅い皿が案外多いことや口辺のカーブの具合やその厚みが薄造りのものも少なくない点から想像して割りあい小さなうつわ類もかなり多いのではないかということも考えられます。これらの点についてはさらなる調査と研究が必要だと思います。 このささやかな小冊子はぼく自身の手持ち機材で撮影してオンラインの簡単なサービスで印刷したものですから、写真、レイアウト、装幀など全てにおいて充分満足のゆくものではありませんが、しかしながらスリップウェアを愛する人にとっては大いに歓迎されるものであるとも信じています。実際にスリップウェアを見ればその紋様や色彩とともに型で抜かれた穏やかなかたちも大変魅力的であることに気付きますが、かたちがあってないようなこういう小さなかけらになってしまっては残念ながらうつわのかたちのうつくしさを味わうことは出来ません。しかしその分だけ二色の泥が流れた線の表情の微妙さや健康的で明るい釉薬の肌合などをさらに端的に感じることも出来るのではないかとは思います。これをきっかけとしていつか相応の撮影者や出版社に結縁してより完全なものが出る日が来るのを念じております。 この宝石のような素晴らしい宝物を発見して贈ってくださったPaulさんYumiさん御夫妻、それからこの冊子のためにうつくしい奥付をデザインしてくれた久野隆史さん、ぼくのスリップウェア好きを支えてくださり共に語りあい歓びあった方々、それから未だ会うことのないスリップウェアを愛する全てのひとに感謝します。
by hanakari
| 2009-12-13 21:13
| つちのもの
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