中世の針

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ロンドンのテムズ川では引き潮になれば川底が現れ、砂に埋もれた古い遺物を探すことを楽しむ人たちが集まってくるのだそうです。
そこには陶器やガラスやコインなどの金属やいろいろなものがあるのでしょう。

これはテムズに限ったことではありませんが、暮らしの遺物はいったんその役目を終えたときには海に川に、あるいは穴を掘って地中へと捨てられました。
京都の街でも道路工事で掘り返している場所からは古い陶器のかけらなどがいくつものぞいていますし、生畑の畑や小さな川の底にも案外古いやきもののかけらが光っているのを時々見つけます。
ひとの暮らしがあった場所には暮らしの伴侶であったやきものが残されている。
そうして埋められたタイムカプセルを掘り起こしたいという願いには何とも本能的なロマンチックな夢があるように思います。

折々にロンドンの街で使われそして捨てられたスリップウェアのかけらを拾い集めては送って下さっているPaulさんYumiさん御夫妻からあるとき厚みはあるが軽い封筒が届きました。
これはかけらであるはずは無いと思ってなんだろうと開けてみて出て来たのがこの針でした。
それはとんでもなくうつくしいもので、いかにも時代を経てはいてもはっきりと残った鍍金と丸い頭の作りが何とも魅力的なものでした。
一目見てまるで百済か飛鳥の古墳から出て来たもののような印象を受けましたが、これは実際に思いがけないくらいに古く1400-1500年頃の衣服を縫うかわりに留めるための針なのだそうです。
そう聞いても巻きスカートの留ピンのようなものしかイメージ出来ないのですがちょっと違うかもしれません。

スリップウェアのかけらは無論うれしいのですがこのような予想もしない未知のうつくしいものに出会った歓びはまた格別です。
西洋服飾史の資料としてはあるいは知られているのかもしれませんが、審美の世界では中世の針はおそらくその対象としてまだほとんど知られていないのではないかという気がしたのです。
まるで知らないひとつの美がここに追加されたような感動を覚えました。
早く紹介したかったのですがなにぶん小さなものですから写真に苦労して時間がかかりました。
結局送っていただいたままの状態で写したのです。
しばしば数本づつまとまって泥の中に埋もれているのだとのことですが、それにしてもこんな小さなものをよく見つけられるものだと驚きます。
いつもながらのお二人への感謝とともに、このような予想だにしなかったうつくしいものの発見を祝福したいと思いここに紹介させていただきます。
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by hanakari | 2009-07-19 00:11 | かねのもの
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